チランジア・カプトメドゥーサエが開花! 自生地でのアリとの不思議な共生関係についても。

2024/07/19 2024/08/11 エアプランツ

はじめに

サイトを見に来てくれたみなさん、こんにちは!
MELIAMANNA(メリアマナ)代表の有吉です。

MELIAMANNAとは、大学院で植物学について学んだ代表が”衣食住”に植物を取り入れた暮らしを楽しみ、探求することをテーマとして活動しているサイトです。


今回の記事の主役は、チランジア・カプトメドゥーサエ!

2024年の5月に突入したぐらいから花芽がモコモコと成長し始め、とても長ーーーい成長期間を経て、7月に入ったタイミングでようやく花の姿を拝むことができたので、その様子を紹介してみますね。花芽が出てから開花するまで約2ヶ月。めっちゃ焦らされました。

実はこのチランジア・カプトメドゥーサエ (以下メドゥーサ)、我が家のエアプランツの中では最も長いお付き合いのですが、やっと初めて開花した姿を見ることができたので、焦らされつつもとっても嬉しい気持ちになりましたw

また記事の後半では、生き物の世界をより深く探検してみようということで、メドゥーサが自生しているメキシコでの、メドゥーサとアリとの不思議な共生関係についても書いています。

ぜひご覧あれ!

メドゥーサの開花

まずは何といってもメドゥーサの写真をということで、開花している様子はこちら!

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とても良い。メドゥーサはクルクルとうねった葉っぱだけでも可愛いのですが、開花するとまた、緑・赤・紫の色の対比が美しい。


また、花芽が出てから開花するまでの経過はこんな感じ。

5月に小さな花芽が顔を出し、6月に入った時点でしっかりとしたサイズまで成長していたので間も無く開花と思っていましたが、それから真っ赤に色づき、開花するまで更に1ヶ月。けっこう時間かかりました。

しかしこのメドゥーサ、一緒に暮らし始めて4年くらいになりますが、最初の方は置き場所をミスって葉焼けさせてしまったり、つい去年には引っ越しで輸送した際にせっかく出ていた花芽がポキッと折れっちゃったり、という経験をさせてしまいながらもずっと大切に育ててきたので、ちゃんと開花しれくれたのが感慨深いですね〜。

またこのメドゥーサは、僕が初めて流木への着生を成功させたエアプランツでもあり、「水が切れると葉っぱのカールが強くなるのか」みたいなサインを出して水やりのタイミングを学ばせてくれたエアプランツでもあるので、やっぱり花を咲かせてくれたのは嬉しいですね。

メドゥーサを元気に育てるための方法

さてお次は、メドゥーサを開花するほど元気に育てるための方法について。

とは言っても自分が気を付けていることは他のエアプランツと全く同じで
・北向きで直射日光の当たらない屋外で育てること(冬以外)
・毎日〜数日に1回、霧吹きでしっかりと濡らすこと
・屋外で育てて、風をしっかりと当てること

の3つくらい。

エアプランツは水やりの後にずっと濡れた状態をとっても嫌うので、「霧吹きで濡らす→→風を当てて乾かす」のメリハリをつけながら育てることが超重要です。またメドゥーサは基部の膨らんだ部分に水が停滞しやすく腐りやすいとのことなので*1 、余計に湿乾のメリハリを意識した方が良さそうですね。ただし前述の通り、乾かし過ぎれば葉っぱのカールがキツくなって水足りてないアピールをしてくるので、軽いパーマくらい葉っぱがうねっている状態をキープするように水やりしています。この表現で伝わるだろうか…。

また僕は以前、直射日光に当てちゃって葉焼けした経験があるので、全ての季節を通して、特に昼間の直射日光には絶対に当たらない北側で育てるようにしています〜。

季節成長開花水やり管理場所
春 (4~6)成長3日おき~毎日北側の屋外。明るい日影。
夏 (7~9)成長毎日北側の屋外。明るい日影。
秋 (10~12)成長毎日~3日おき北側の屋外。明るい日影。
冬 (1~3)休眠週1ほど南側の屋内。陽が差し込む所。
メドゥーサの育て方@福岡県

メドゥーサってこんな植物

開花の様子や育て方を見ていただいたところで、お次はメドゥーサについて少し深掘りしながら理解を深めてみましょう〜。

和名:チランジア・カプトメドゥーサエ
学名:Tillandsia caput-medusae
分類:パイナップル科 Bromeliaceae
原生:メキシコ〜中央アメリカ*1
環境:樹木に着生する
生態:基部の膨らんだ部分にアリが巣を作る*1*2

名前について

いたる所でお馴染みのお話かもしれませんが、まずは学名の Tillandsia caput-medusae について。

“caput”はラテン語で「頭」、”medusae”はその名の通りギリシャ神話に登場する蛇頭の怪物を示します。メドゥーサの、カールしながら四方八方へと伸びる細長い葉っぱを喩えた、すごく良い名前だと思います。

実はあらゆる生物の学名って、このメドゥーサみたいに、その生物が持っている特徴を表現していることが多くあるんですよね。だから「〜〜〜という学名が付いてるってことは、〇〇○な特徴を持ってんのかな!?」みたいに予想することもできちゃったりするんです。そして僕個人的には、このように学名から生物の特徴を予想できるという視点を与えてくれたきっかけになったのが、メドゥーサだったりもするのです。だって”caput-medusae”の由来を初めて知った時、めちゃくちゃ感動しましたもん!

原生地と生育環境について

メドゥーサの原生地は、メキシコ〜中央アメリカの国々 (エルサルバドル・ホンジュラス・コスタリカ・グアテマラ)で、生育している標高は0m〜2,400mまでだそう*1。また樹木に着生しながら生育しています。

これらの特徴は “THE エアプランツ” といった印象で、よく普及しているエアプランツの種類と大差ないように思います。

生態について

個人的にとても面白いなと思ったメドゥーサの特徴は、その生態にあります。というのも、基部の膨らんだ部分にアリが巣を作ると。つまりアリと共生しながら暮らしているということですね。

僕がアリ植物と聞くと、大きく膨らんだ幹の中にアリを住まわせているMyrmecodia(ミルメコディア)Hydnophytum(ヒドノフィツム)のような植物をまず最初に想像するのですが、エアプランツまでもがこのような生態を持っていることにとても驚きました!

メドゥーサとアリの共生関係については個人的にすごく興味が湧き、論文を読みながら深掘りしてみたので、次のセクションでは、メドゥーサが自生しているメキシコでのメドゥーサとアリとの不思議な共生関係について書いてみることにしますね。

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メデューサとアリの不思議な共生関係

さて、ここからは生物の世界の奥深くへと入り込んでいきます。

テーマは、メキシコにおけるメドゥーサとアリとの不思議な共生関係について。

メドゥーサとアリは互いに恩恵を与え合いながら共生している一方で、メドゥーサはアリによって新しい個体の着生を妨げられ、個体数を減少させられてもいるんじゃないの? というお話です。

アリと共生する植物

さっきから「植物とアリって共生することもあるんだよ」などと当たり前のように言っていますが、植物ヲタでもなければハテナ続出だろうと思いますので、まずは植物がアリと共生する時、そこでは何が起きているのかを簡単に解説してみます。

まずアリと共生する植物は、何の捻りもないですがアリ植物と呼ばれます。そしてアリ植物とアリが共生するケースのほとんどでは、相利共生の関係が成り立っています。つまり、アリ植物はアリに対して恩恵を与え、アリもアリ植物に対して恩恵を与えている関係性。お互いにとってメリットがあるから一緒に暮らしているということですね。

その恩恵というのを具体的に挙げてみます。

アリ植物→→アリ
・アリが巣を作って生活するためのスペースを提供してあげる。
・アリにとって食物となる蜜などを分泌してあげる。

アリ→→アリ植物
・アリは攻撃性が強く、アリ植物を食害する動物から防衛してあげる。
・アリは縄張りをパトロールして綺麗にする習性があるため、アリ植物と競争関係にある着生植物やツル植物の種子を排除してあげる。
・栄養の乏しい樹上に着生するアリ植物のために、アリの排出物によって栄養を供給してあげる。

これらの恩恵のうちどれが採用されているかは個々のケースによりけりでしょうが、お互いにとってメリットがありそうだな〜というのはなんとなく理解していただけたんじゃないかと思います。この共生関係では、アリ植物はアリの居住スペースや食べ物を用意する係、アリはアリ植物のための門番係、みたいな印象を個人的には持っています。絶対ってわけじゃないけど、なんとなくのイメージで!

メドゥーサとアリの共生関係

それで話は戻りますが、今回の記事で紹介してきたメドゥーサも、自生地であるメキシコではアリと共生するアリ植物だというのです。

というのも、メドゥーサをはじめとする数多くのエアプランツが生育しているメキシコの森林において、メドゥーサと共生関係にあるアリの種数を調査したところ、なんと9種ものアリが共生していることが判明したそう。そしてこれらのアリは、メドゥーサの基部の膨らんだ部分に外から穴を開けて入り込むことで、その内部を巣として利用するそうです*2。(おそらく、1個体のメドゥーサに複数種のアリが住むことはないと思いますが。)

またアリの方でも、住処としているメドゥーサの周囲に設けた縄張り内をパトロールし、樹上に落ちている植物の種子を排除するなど、縄張りの環境を綺麗に保とうとする行動が見られたそうです*2。周囲に落ちている種子が発芽すれば、いずれは生えるスペースをめぐってメドゥーサと競争になるので、アリが種子を排除してくれるとメドゥーサにとっては大助かりなわけですね。

お互いが自然を上手に生き抜くために獲得した、とても興味深い関係性だと思います。

しかしこれを読んで僕は、メドゥーサはアリを誘き寄せて住処を供給しているよりかは、アリの方が勝手に穴開けて入ってきていると表現した方がしっくりくるような気もしました。「守ってやるから住まわせろよ」みたいなw 強引な気もしますが、まあこれも結果的に相利共生に当たるのでしょう。もしもメドゥーサがアリを引き寄せるために蜜などを分泌しているのであれば、アリを積極的に招き入れて恩恵を与えているとも取れますが、今回引用した論文内ではこの事について触れられていませんでした残念。ここで一度、メドゥーサを新しくゲットして解剖し、蜜腺があるのか確かめてみてもいいのですが、メスを入れるのが可哀想で心が痛むのでやめておきます。

メドゥーサと共生するアリの不可解な行動

このようにメドゥーサはアリに対して巣となるスペースを供給し、アリはメドゥーサの競争相手となる植物の種子を樹上から排除しつつ、互いに恩恵を与え合いながら生活しているわけです。

………という所で話が終わればハッピーエンドなのですが、今回の論文ではアリの不可解な行動についても報告されています。

それは、パトロールの際にメドゥーサの競争相手となる植物の種子を排除しながら、メドゥーサの種子も同時に排除しちゃうこと*2。紛れもない裏切り行為ですな。

自分が住処として利用している植物が子孫を残そうとして散布した種子を、無惨にも排除しちゃうと。メドゥーサは樹上に着生する植物ですので、種子が樹上から排除されてしまうことは、それすなわち新しいメドゥーサが誕生しないことを意味します。アリさん、あんぽんたんです。

論文の筆者は、更にこう付け加えます。

調査した森林に生育する着生植物のうち、メドゥーサが占める個体数の割合は3%未満と少なく、また風媒(風によって種子が散布されること)で親個体の近くに種子が落ちるメドゥーサにとって、アリが種子を排除する行動が個体群に影響は大きいと考えられる。またこの行動により、新たに着生するメドゥーサの個体数が減少している可能性もある*2

これもう近い将来には、相利共生であるはずのアリの裏切りによって絶滅しちゃう路線も見えてくるんじゃないでしょうか。仲間に裏切られるなんて、植物界の織田信長になってしまうのでしょうか。メドゥーサ、とっても好きな植物なだけに心配でたまりませんが、このように不安定な部分も持ち合わせているのが生物の魅力でもあるんですかね、とか抜かしてみたところで記事を締めることとします。

最後まで読んでくれてありがとうございました!

参考にした情報

*1 LLIFLE / Tillandsia caput-medusae
 https://www.llifle.com/Encyclopedia/BROMELIADS/Family/Bromeliaceae/28211/Tillandsia_caput-medusae
*2 Carmen Agglael Vergara-Torres, Cecilia Díaz-Castelazo, Víctor Hugo Toledo-Hernández and Alejandro Flores-Palacios, 2021. Lowering the density: ants associated with the myrmecophyte Tillandsia caput-medusae diminish the establishment of epiphytes. AoB PLANTS 13(4): 1-7.
https://academic.oup.com/aobpla/article/13/4/plab024/6272005

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