はじめに
サイトを見に来てくれたみなさま、こんにちは!
MELIAMANNA(メリアマナ)店主の有吉です。
MELIAMANNAとは、大学院で植物学について学んだ店主が
”衣食住”に植物を取り入れた暮らしを追求すことをテーマとして
2023年に立ち上げたサイトです。
今回の記事の主役は、セッコク(石斛)です!!
というのも、僕が用事の帰り道に、とある園芸店にふらっと立ち寄った時
スペースの片隅に雑に置かれていた流木付きのセッコクに一目惚れしてしまい…。
入店した時は、少し見るだけで、特に何も買う気なかったんですけどね…。
植物愛好家の皆さんならば、とてもあるあるな話だと思いますが
このような経緯で我が家にお迎えすることになりました。
そして自分でも意外だったのですが、今回がラン自体を育てるのが初めて!
ランに関する基本的な知識や育て方を知ってはいるものの
自分で実践するのは初めてのことです。
そこで今回は、植物好きだけどランを初めて育てる僕が
・セッコクの季節ごとの育て方と注意点
・セッコクの株分けの方法
について自分なりにまとめてみましたので、ぜひ読んで参考にしてみてくださいね!
流木付きのセッコクに一目惚れした話
今までたくさんの植物を育ててきた僕ですが、本当に久しぶりに一目惚れしました。
しかも、全く育てたことのないセッコク、つまりはランに。
そしてこのセッコクのどこに魅力を感じたのかといいますと、それは
バルブが勢いよく立ち並ぶ姿であったり
力強い葉の青さであったり
覆輪(葉の縁に入る斑のこと)の控えめな美しさであったり
黒枝流木の武骨さであったり
その流木にびっしりとしがみつく根の姿であったり。
家に連れて帰って眺めていると、セッコクが古典園芸植物として
江戸時代から楽しまれてきた意味が、やっと心の中にストンと入ってきたような気がしました。
そして、新しい品種を作り出そうと、一心不乱になっちゃう人たちの気持ちも。
なんだか、日本人のDNAに刻み込まれているような美しさを感じます。
セッコクを眺めて楽しんでいる時間は
僕が大好きな京都の仁和寺の庭園でゆったりと過ごしている時間と
同じような魅力を持っているな〜〜と思うこの頃です。
セッコクについての簡単な紹介
ここでひとまず、セッコクという植物について簡単な紹介をしてみますね。
和名:セッコク(石斛) / 長生蘭
学名:Dendrobium moniliforme
分類:ラン科 Orchidaceae
原産:岩手以南〜沖縄 / 朝鮮〜ヒマラヤ
環境:谷川沿いの岩や、その付近の樹木に着生
◎1年のサイクルについて
まずはイメージを掴むために、セッコクの1年の成長サイクルについて紹介しておきます。
春季:
根本から新しいバルブが生えてきて、節ごとに1枚の葉を出します。
前の冬に葉が落ちた去年のバルブからは、バルブ1本あたり数個の花が咲きます。
花色は白・ピンクなどで、芳香があります。
この時期に花を咲かせることが、セッコクを育てる醍醐味でしょう!!
また春季は、植え替えや株分けに最適な時期でもあります。
夏季〜秋季:
去年のバルブに咲いていた花が落ち
新しいバルブの青々とした葉色や、葉芸(葉の形・斑の模様)を楽しむ季節です。
花以外のセッコクの醍醐味は、葉も楽しむことができること。
古典園芸植物として、日本各地で数多の品種が作り出されてきた歴史がありますので
ぜひ直感でビビッときたものをゲットしてみてくださいね。
また秋季は、来春に向けて花芽が形成される時期でもあります。
冬季:
新しいバルブについていた葉を落とした状態で、冬を越します。
特に鑑賞価値はない時期ですが、来春の開花を楽しみに待つ時期です。
◎原産地について
日本では、北は岩手、南は沖縄までと、幅広い地域に分布しています。*1
また国外では、朝鮮・台湾・中国大陸・ベトナム・ミャンマー・ネパール・ヒマラヤにかけてと
国外でもかなり広い分布域をもっていることが分かります。*2
それにしても、国外でも、日本のようにセッコクを鑑賞する文化はあるんでしょうかね?
僕がいつも観ている、中国雲南省の生活を紹介しているYouTubeチャンネルがあるんですが
そこでは、雲南省の鬱蒼とした森林の樹木に着生している美しいセッコクが
バルブの根元から無惨にもチョキンチョキンと切り取られ
それを乾燥させて酒に漬けている様子が動画に収められていました。
(“石斛”と書かれていましたが、もしかしたら日本のとは違う種かも)
それを観て僕は
「あ…こんなに綺麗なセッコクが…日本では貴重なのに…」と思う反面
「なるほどこんな使い方もあるんだな! どんな薬効があるんだろう?」と
興味津々になった記憶があります。
しかしよく考えてみると、ここまで植物の分布域が広ければ
ある地域ではもっぱら鑑賞目的で、バルブをちょん切るなんてご法度だけど
自然に潤沢に生えている地域なら、節度を守りつつちょん切って薬草として使う、みたいに
各地域によって植物の利用価値が全く異なるのはごく当たり前のことであって
それがとてもとても興味深いことだな〜と思いました。
◎生育環境について
セッコクは、谷川沿いの岩や頂上近くの岩、その付近の木々に着生して生育しています。*1
園芸として楽しまれる際は、素焼き鉢や楽鉢に水苔を詰めて植え込まれていることが多いですが
本来自然界では、岩や樹木にびっしりと根を張って着生しているのです。
楽鉢/水苔に植え込まれた姿も、セッコクの株姿が際立ってとても美しいのですが
やはり個人的には、セッコクが自然界で生きのびる様を再現して
岩や流木に着生させている姿の方が美しいと感じてしまいます。
だからこそ、今回流木着きのセッコクに一目惚れしちゃったんでしょうね〜。
セッコクの季節ごとの育て方と注意点
お次はこの記事の本題である、セッコクの季節ごとの管理方法と注意点について。
MELIAMANNAでは、「住と植物」というテーマで植物を”生活を共にするパートナー”と捉え
住まいを植物で彩るためのアイデアや、植物を上手に育て上げるための知恵を発信しています。
セッコクは、ランの中でも比較的丈夫な種類で、とても育てやすい種類です。
ただしセッコクは、季節ごとによって、水やりの方法や、日光への当て方が異なります。
このことを意識しないと、最悪の場合、花芽が形成されずに花が咲かないことも…。
丈夫な植物なので、多少雑に扱ってしまっても、そうそう枯れることはないですが
ランの魅力のひとつである花を春先に楽しむためにも
以下のことをしっかりと意識しながら、育ててみてくださいね!
◎1年を通して
セッコクは、日当たりと風通しの良く、乾燥した環境を好みます。
この2つがしっかりと揃う環境であれば、置き場所はどこでも大丈夫でしょう。
家のお庭でも、ベランダでも、温室でも、室内でも。
これは個人的な意見なのですが、セッコクのように本来は岩や樹木に着生する植物は
「湿る→乾く→湿る→乾く」のメリハリを特に好む印象があります。
これを言い換えてみると
日当たりや風通しが悪く、ジメッとした環境で育ててしまい
植物が成長のために水を吸収せず、また余った水分が蒸発しなくなると
湿乾のメリハリがつかずに余計な水分が溜まってしまい、植物が弱ってしまいます。
ですので1年を通して、日当たりと風通しの良い環境に置いてあげることを意識してみましょう。
水やりも、しっかりと乾いたタイミングでたっぷりとあげるのが基本ですが
水やりの間隔が空いてしまい、多少乾燥させ過ぎてしまっても問題ありません。
◎春季(4~6月)
春季は、冬季の休眠が明け、成長期に入る時期です。
休眠が明けたばかりの4月はやや少なめに水やりを行ない、徐々に慣らしていきます。
5月に入ってからは、乾いたタイミングでたっぷりと水をあげます。
直射日光に当てても問題ないですが、心配な場合や、もし葉焼けが見られる場合は
遮光してあげたり、明るい日陰に置いてあげたりと、臨機応変に対応すると良いです。
◎夏季(7~9月)
成長期にあたる時期ですので、乾いたタイミングでたっぷりと水をあげます。
近年、生活どころではなくなるほど、夏の気温が上がってきていますね。
朝方から昼にかけて水やりをすると、日中に蒸れてしまって株が弱ることがあるので
夕方に水やりをしてあげます。夕方がどうしても難しいならば、早朝に。
日当たりは、夏の直射日光による葉焼けを避けるため
寒冷紗やよしずなどで遮光してあげるか、直射日光の当たらない明るい日陰で管理します。
◎秋季(10~12月)
秋季は、成長期を過ぎ、休眠に入り始める時期です。
成長が緩慢になるため、10月に入ったら徐々に水やりの頻度を減らしていき
11月に入ってからは回数をぐっと減らします。
秋季はまた、来春の開花に向けて花芽を形成する時期でもあります。
この時期の水やりが多すぎると、花芽が葉芽に変化してしまい、来春の開花が期待できません。
そのため、できるだけ水を切るように心がけましょう。
ちなみに、このように秋に水を切る行為は、デンドロ虐めと呼ばれます。
”デンドロ”とは、セッコクの属名であるDendrobium(デンドロビウム)から。
来春に花を拝むために、鬼の心でいきましょう!!
また、夏を過ぎて陽の光が弱まったら、直射日光に当てても構いません。
花芽の形成を促すためにも、よく日光に当てましょう。
この時期も、心配な場合や、もし葉焼けが見られる場合は
遮光してあげたり、明るい日陰に置いてあげたりと、臨機応変に対応すると良いです。
◎冬季(1~3月)
冬季は、完全に休眠期です。
成長が止まっているため、水やりの回数はぐっと減らしたままです。
またこの時期も、日光によく当たる場所で管理してあげます。
セッコクは日本では岩手県まで分布しており、耐寒性がとても強い植物です。
そのため、この時期も屋外で管理して全く問題ありませんが
念の為、強い北風・霜・雪に直接当てないことを意識しておきます。
セッコクを株分けして流木に着生させる
セッコクの季節ごとの育て方についてまとめたところで
話は僕が一目惚れしたセッコクに戻ります。
家に連れて帰った流木着きのセッコクをフムフムと眺めていると突然
あることに気がつきました。
なんか下の方に向かってダイブしていますねww
しかも、ダイブしてからしばらく時が経過しているらしく
よく見てみると、流木に向かって7~8本ぐらいの根をしっかりと伸ばしています。
写真では分かりづらいですが、流木に向かってこれから伸びようとしている根もあります。
ダイブしながらも一生懸命しがみついている姿がかわいく見えてきたので
そのまま育ててみようかな〜〜とも思ったのですが
部屋を探すと流木が余っていたので、自分で株分けして着生させてみることに。
ダイブしているこいつはバルブが3本しかついていないですが
ちょいとググってみると、株分けするにはバルブが5本以上あった方がいいとか…。
また、本来株分けに適した時期は春先ですが、このセッコクを迎えたのは9月…。
とまあ、こんな事情はいろいろあったのですが
モチベーションの鮮度が一番良いのは思い立った今この瞬間なので
失敗したらその時はその時…..ということで、株分けをやってみます。
【株分けして着生させる方法】
①ナイフやハサミを使って株分けしたいバルブを切り離す(できたら5本以上)
②流木に水で戻した水苔を敷き、株分けしたセッコクを乗せる
③根が張って着生するまで固定するため、上から麻紐などで縛る
着生させるための手順は、こんな感じですかね!
これは個々のスタイルがあると思いますので、臨機応変に!
あまり細かく写真を撮っていなかったのが少し後悔です。
さいごに
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
ふらっと立ち寄った園芸店で、一目惚れしてしまった流木着きのセッコク。
ランの育て方の基本的な知識はあったものの、自分で実践するのは初めてだったので
今回の記事では、これをきっかけにセッコクの季節ごとの育て方や株分けの方法について
自分なりに詳しくまとめてみました。
セッコクを既に育てていて、育て方で何かお悩みの方は
どこか役に立つところがありましたら、ぜひ参考にしてみてください!
またこの記事を読んでみて、セッコクを育ててみたくなった方は
すぐに近くの園芸店へダッシュ!!
巡り合わせがよければ、お気に入りに出会えるはずです。
ではまた、次の記事でお会いしましょう!!
参考にした情報
*1 石井昭彦, 2018. 長生蘭. 75-79 “古典園芸の世界” 日本伝統園芸協会.
*2 Kew Royal Botanic Gardens / Orchidaceae / Dendrobium / Dendrobium moniliforme