もくじ
はじめに
サイトを見に来てくれたみなさま、こんにちは!
MELIAMANNA(メリアマナ)店主の有吉です。
MELIAMANNAとは、大学院で植物学について学んだ店主が
”衣食住”に植物を取り入れた暮らしを追求すことをテーマとして
2023年に立ち上げたサイトです。
今回の記事は、読書日記シリーズ。
最近『Shinrin-Yoku(森林浴) 心と体を癒す自然セラピー』という本を手に取ったのですが
その内容がとても興味深く、生活の豊かさがどこまでも上昇しちゃうような内容だったので
本の内容や、読んでみた感想について紹介してみたいと思います。
僕が読んでみて思うに、この本のテーマは
森林浴で自然の中に身を投じることや、(眺める・嗅ぐ・触ることで)植物と接することが
ヒトの心や身体に対してどのような影響を与えるかというのを科学的に解き明かすこと。
「森の中で過ごすと、なんとなく心が落ち着いてくるなあ」
「しかも、思考がクリアになってインスピレーションが湧いてくるなあ」
「植物のかわいい形や花の匂いには、いつも癒されるなあ」
などといった、誰しもが感じたことがあるであろうなんとなくの感覚が
「なるほどそういう仕組みか!」という確かな感覚に変わっちゃうような本です。
でははじめに、この本を手に取ったきっかけや、森林浴そのものについて簡単に紹介した後
この本の簡単な内容や、読んでみた感想について書いてみることにしますね。
この本を手に取ったきっかけ
僕が今回この本を手に取ったのには、はっきりとしたきっかけがあります。
それは、前回の読書日記シリーズで紹介した
『植物は〈知性〉を持っている』という本に書いてあった
植物が近くにあるだけで本能的にリラックスするという事実に衝撃を受けたから。
さらにこの本では、身近に緑豊かな環境がある場所では、そうでない場所よりも
・入院患者に必要な鎮痛剤の量が少なくて済み、入院期間が短かかった
・学生のテストの成績が良かった
・事故の発生件数が少なく、自殺や暴力犯罪も少なかった
という結果を示している研究が紹介してあり
植物がヒトの心身に及ぼす影響について、一気に興味が湧きあがってきたのでした。
そこで、この事についてもっと深掘りできそうな本はあるかな〜と探してみたところ
今回紹介する『Shinrin-Yoku(森林浴) 心と体を癒す自然セラピー』を見つけたわけです。
そもそも森林浴って何?
ます初めに「そもそも森林浴とは何なのだろう?」という疑問が湧いてきたので
スマホで簡単に答えを手に入れる前に、まずは少し頭を回転させて考えてみました。
そこで僕の頭に浮かんできた森林浴のイメージは…
・ただ森の中でのんびりリラックスしながら過ごすこと?
・それとも、森の中を歩き回って意識的に森の空気や匂いを楽しむこと?
・それとも、森林浴のための特別なプログラムをこなさないといけないの?
といった感じ。
リラックス・リフレッシュするために森林の中で過ごす
というのはどれにも共通しているけど
具体的にどんな行為をとれば、それが森林浴と言えるのかがよく分からんな…。
そう思いながら本のページをめくってみると、イントロダクションにこう書いてありました。
森林浴とは、簡単に言うと、ゆっくりと森の中を歩くことです。
宮崎良文 『Shinrin-Yoku(森林浴) 心と体を癒す自然セラピー』*1
ーーー
すべての感覚を使って自然と触れ合い、森林環境を浴びるのです。
なるほどな〜と頷きながら、今度は国語辞典を開くとこう書いてありました。
しんりんよく【森林浴】
旺文社 国語辞典 第十一版
森林を散策し、樹木の香気を浴びたり清浄な空気を吸ったりして、
精神的なやすらぎを得ること。
とまあ、森林浴とはこんな感じらしいです。
これらに加えて、ネットで色んなサイトを巡回しながら考えたところ、僕の森林浴に対する解釈は
「心身に良い影響を与えることを目的に、森林の環境と触れ合いながら散策すること」
というところに落ち着きました。
ま、大きく外してはいないでしょう!
この本のここが面白い!
“森林浴”という言葉の意味について考えてみたところで、お次は内容の紹介です。
個人的に面白かった内容と、それに対する感想を、テーマごとに書いてみることにしますね。
ヒトの体は自然環境用に作られている
この本で最も強調されていると言っても過言ではないのが
ヒトの体は自然環境用に作られているということ。
Back-to-nature theory(自然回帰理論)というタイトルの付けられたページに
このことを象徴している文章がありましたので、それを引用してみます。
人間は、人間となって約700万年が経過しました。仮に産業革命以降に都市化、人工化したと仮定した場合、その期間は2〜300年間に過ぎず、人間は99.99%以上を自然環境下で過ごしてきたことになります。
宮崎良文 『Shinrin-Yoku(森林浴) 心と体を癒す自然セラピー』*1
ーーー
遺伝子は数百年という短期間では変化できないため、私たちは自然環境に適応した体を持って現代社会を生きているのです。必然的に、常にストレス状態にあります。
これを読んで僕は、この文章こそが、この本が最も伝えたいコアの部分ではないかと思いました。
ヒトの体は自然環境用に作られているけど、都市化が進み日常生活が自然環境と切り離されてしまった今
ヒトは本来居るべき環境に居ないよね。だからストレスにまみれるのは当然だよね。
みたいな。
我流で別の言い回しをしてみると…
ヒトは本来の生息地である森林に適応しながら進化してきた。
しかし、急速な高次意識の発達に伴う急速な生息環境の都市化に、心身の進化が付いていけていない。
従って、自然環境用の体で、都市化された環境に常に身を置いている状況は
アドレナリン全開で常に警戒が必要な人類未踏の場所に身を置いている状況と大差はない。
そのような交感神経優位の状況(血圧・心拍数↑ / 呼吸・消化↓)が日常生活として長期間続けば
慢性的なストレスによる何かしらの症状が出てくるのは、さも当然。
ということじゃないでしょうか。
そして、都市化された生活によるストレスを軽減させ、心身共にバランスの取れた状態を取り戻すには
森林浴をはじめとする自然セラピーなどによって、自然との繋がりを保ち続けることが大切。
このような内容こそが、この本が優しく訴えかけている最も大切な内容であると感じました。
「ヒトにとって本当に幸せな生活って何だろう?」という疑問については
ありとあらゆる人間によって、ありとあらゆる議論がこれまでに繰り広げられてきたと思います。
僕自身、その疑問に対する答えは、ヒトの根源的で本質的な部分にヒントが隠されていると感じていて。
それは例えば、観葉植物の日々の成長をウキウキで眺める自分に農耕民族のDNAを感じることだったり、
YouTubeに動画を載せてる、自然農をやってる埼玉の兄ちゃんが
「やっぱね〜、畑に出るとね〜、ハイになりますよね〜」って言ってることだったり、
過酷な登山中にどこからか水の流れる音が聞こえてきたら安心することだったり。
生活の拠点が都会だろうが田舎だろうが、そんなことは関係なく
ビンビンの五感でこのような感覚を寄せ集めて、工夫して生活に落とし込んでいくことで
何か見えてくるものがあるんじゃないかな〜と考えたりするわけです。
こんなことを思っていた今日この頃、この本が訴えかけている
ヒトの体は自然環境用に作られているという紛れもない事実は
心の中にスンッッと入り込んできたのでした。
自然セラピーはヒトの心身にどう影響するのか?
お次は、森林浴のような自然セラピーがヒトの心身に与える影響について。
この本の著者は宮崎良文さんという、千葉大学の名誉教授の方。
紛れもない森林浴研究の第一人者であり、森林浴に関する論文を数多く執筆されています。
そのため、この本には研究によってしっかりと裏付けられたデータが多く示されており
この本を読み込めば、「やっぱり自然は癒されるな〜」というなんとなくの感覚が
「なるほどそういう仕組みか!」という確かな感覚に変わります。
例えば、森林浴研究の歴史を紹介している部分では、下のように記されています。
森林浴の生理的効果に関する実験は、1990年3月に屋久島において私が初めて実施しました。ちょうど、実験開始時に測定指標として確立された唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)を指標として、NHK(日本放送協会)の協力のものと、行いました。その後、10年間ほど、生理的データの蓄積は、進まない状況が続きましたが、2000年に入ってからは、脳活動や自律神経活動計測法の進歩や計測機器の開発が急速に進み、ここ15年ほどで、急速にデータ蓄積がなされつつあります。
宮崎良文 『Shinrin-Yoku(森林浴) 心と体を癒す自然セラピー』*1
このように、森林浴をはじめとする自然セラピーがヒトの心身に与える影響を調べる際は
・ストレスホルモンの濃度(唾液中のコルチゾールの濃度)
・脳活動の強度(前頭前野の活動量)
・自律神経活動の強度(副交感神経・交感神経の活動量)
が指標として用いられているようです。
また他にも、心拍数、血圧、免疫機能(血液中のナチュラルキラー細胞活性)
などといった指標が用いられることもあることが紹介されています。
また、自然セラピーがヒトの心身に与える影響を調べるための調査方法が紹介されていたので
その流れを簡潔にまとめてみると
・調査場所として森林部と都市部を用意し、2日間に渡って調査。
・被験者を2グループに分ける。半分のグループは1日目に森林、2日目に都市。もう半分はその逆。
・どちらのグループ共にそれぞれの場所で、午前は15分の歩行、午後は15分の座観を行なう。
・被験者は全員、朝食前・歩行前・歩行後・座観前・座観後に、上記のような指標を計測。
といったような感じで、これが自然セラピー調査のモデルケースなのだろうと思います。
実際に、2005〜2006年に日本の24箇所の森林で、森林浴がヒトに与える影響を調査したものをまとめると
森林環境で歩行や座観を行なった時は、都市環境でそれらを行なった時よりも
・ストレスホルモンの濃度が低下した
・心拍数や血圧が低下した
・交感神経の活動が鎮静化した
・副交感神経の活動が活性化した
との結果が得られており、森林にはリラックス効果があるということが判明しています。*2
また、このような結果が得られた理由としては
ヒトは500万年以上もの間、自然環境下で生活してきたため
ヒトの身体機能が自然環境に適応しているからではないか、と考察されています。*2
というように、ちょいと小難しい話でしたが
このような仕組みがあることによって、私たちが森林に囲まれた瞬間に
「なんか落ち着くな〜」という感情が湧き、実際に体もリラックスモードに入るようです。
そしてやはりここでも、ヒトの体は自然環境用に作られているというお話が出てきました。
ヒトが持つ本来の性質を理解しておくことは、人生をコーディネートしていく上で
とってもとっても大切なことのように思います。
森林浴以外の自然セラピーについて
これまでは、森林浴がヒトの心身に与える影響について紹介してきましたが
自然セラピーには、森林浴の他にもさまざまな方法があることも紹介されていました。
それは例えば、このようなもの。
・都市にある公園の中を歩くこと
・観葉植物や盆栽を眺めること
・花を眺めたり、香りを嗅いだりすること
・木材に触れたり、香りを嗅いだりすること
これらの方法においても、森林浴と同じように、自律神経の活動を調べてみたところ
セラピー後には、交感神経活動の鎮静化 / 副交感神経活動の活性化 が見られ
リラックス効果があることが実証されているようです。
「森林浴でリラックスしよう!」と意気込んでみたはいいものの、特に都会にお住まいの方は
森林まで距離があることもしばしば。正直移動にも体力を使います。
しかし、上に挙げたような室中でも実践可能な自然セラピーの効果が実証されている今
それらを楽しく積極的に取り入れていくことができるんです。
都会を歩くときも、公園の中を通ってみたり、緑の多い道を探し出してみる。
近くの園芸店や盆栽屋に行って、佇まいが気に入った植物を連れて帰ってみる。
色や香りが気に入った花を買って帰って、花瓶に挿して楽しんでみる。
アロマポットにエッセンシャルオイルを垂らして、植物の香りを楽しんでみる。
みたいに、ちょっとした工夫と楽しむ心があれば、たとえ都会に住んでいようが
なんだってできちゃいますよ〜!
MELIAMANNAでは今後、このように植物を生活に取り入れるための知恵などについても
どんどん発信していこうと考えていますので、ぜひ今後ともお付き合いをお願いします!
さいごに
最後まで読んでくださり、ありがとうございました〜!
個人的には、植物がヒトの心身に与える影響について好奇心が湧いていた中
この本に出会えたのはとてもいい流れでした。
おかげで、植物と人間との関わりに関する解析度が格段にアップした気がします。
特に都会暮らしでは、気付かぬうちにストレスまみれになってしまう世の中ですが
ヒトの体は自然環境用に作られている、という紛れもない事実を心に留めておきながら
しっかりとオフモードの時間も確保できるように暮らしを工夫していけたらいいですね。
そうすることで、オンの時間でも、より迷いなく突っ走れるんじゃないかと思ったり。
将来的には、オフィス・学校・病院などの施設の中に1ヶ所は植物に囲まれた空間がある
みたいな世界になったら、もっとピースフルな世の中にならねーかなーと妄想したりもします。。
ではまたー!
参考
*1 宮崎良文, 2018. Shinrin-Yoku(森林浴) 心と体を癒す自然セラピー. 創元社, 大阪, 191pp.
*2 Bum Jin Park, Yuko Tsunetsugu, Tamami Kasetani, Takahide Kagawa, Yoshifumi Miyazaki, 2010. The physiological effects of Shinrin-yoku (taking in the forest atmosphere or forest bathing): evidence from field experiments in 24 forests across Japan. Environ Health Prev Med 15: 18-26.