もくじ
はじめに
サイトを見に来てくれたみなさん、こんにちは!
MELIAMANNA(メリアマナ)代表の有吉です。
MELIAMANNAとは、大学院で植物を学んだ代表が”衣食住”に植物を取り入れた暮らしを楽しみ、探求することをテーマとして活動しているサイトです。
今回の記事の主役は、コバノカンアオイ!
あれは今から約半年以上前の2023年7月頃だっただろうか、”カンアオイ”とだけラベリングされた植物をお店でたまたま見かけたので、
「なんか直射日光に当てられとるけん可哀想やなー、助けてあげるかー。」
「日本の植物で耐寒性あるし、放置気味でも育てやすいやろ!」
などといった理由を並べたて、そのまま家に連れて帰ることにしました。
そんな我が家のカンアオイ、結構マジで放置したまま冬を越したんですが、2024年3月の今になって久しぶりに様子を見てみるとめっちゃびっくり、小さくて可愛い花を溢れんばかりにつけていました。しかも堰を切ったような勢いで新芽が吹き出してきていて、また一段とレベルアップした姿に変貌。
そして今回は、せっかく開花したこのタイミングなので、超難関とも言われるカンアオイの同定に挑戦してみることに。ラベリングが”カンアオイ”だけだったので、いったいこれは”何カンアオイ”なのかずっとモヤモヤしてたんですよね。
実際に直面した同定の難しさに呻きながらも、本読んだりググったりを繰り返した結果、我が家に居るのはコバノカンアオイ(Asarum variegatum)ということになりました。あんま自信ないけど!
ということで今回の記事では、綺麗に開花し芽吹いている我が家のカンアオイの写真や、すげー雑な育て方、また同定に挑戦してみた過程について紹介していくことにしますね。
かわいい我が家のカンアオイ
2024年春の開花、そして芽吹き!
まずは何よりも、綺麗に花が咲き、芽吹いている様子を!
ということで今春のカンアオイの写真はこちら!
めっちゃいい感じです。
正直言っちゃうと、花には特に奇抜さや華麗さがあるわけでもなく、THEカンアオイの花やなーぐらいな印象ですが、それでも小さなサイズ感が可憐でかわいい。
それと新芽なんですが、今春に出てきたやつらにはくっきりと斑の模様が表れていて、とても美しい。古い葉にはここまではっきりと模様が表れているわけではなかったので、とても嬉しい変化でした。個人的には、アグラオネマなんかに匹敵する葉の美しさだと思いますね。円形である葉のサイズは直径4~5cmくらいと小ぶりでした。多くのカンアオイはハートのような形の葉を持ち、葉先が尖っている場合がほとんどですが、我が家のカンアオイの葉先は少し内側へと凹んでいるのも大きな特徴でしょうか。
あと今回初めて気がついた可愛いポイントは、新芽が伸びてくる時の姿! すぐ下に載せている写真みたいに、中心で綺麗にパタンと折り畳まれながら新芽が出てくるのです。こんな小さな変化を見つけられた時こそが、やっぱ自分の手元で育ててみてよかったなーと思える瞬間。
すごい雑なカンアオイの育て方
こんなに綺麗に成長してくれている我が家のカンアオイですが、育て方は超テキトー。
気をつけていることがあるとすれば
・一日中直射日光の当たらない日陰に置いてあげること。
・鉢の土が常に湿っているようにしてあげること。
ぐらいなものです。
年中屋外で、雨晒しだし、台風来ても取り込まないし、霜や雪にも当てちゃうし。日陰で土の乾きが遅く、雨の水だけで事足りているので、ほとんど水やりをすることはないです(夏は例外だけど)。そういえば元気かなー、ぐらいのテンションでたまに気にかけるぐらいw
こんな雑な対応でも開花して芽吹いてくれるんだから、これでいいんです。
カンアオイの同定という世界
さてここからは、カンアオイの同定というかなりディープでマニアックな世界に入り込んで行きます。
日常生活ではなかなか使わない言葉なので一応補足ですが、生物学でいう”同定“とは、ある生き物の種(しゅ)を特定すること。今回登場しているカンアオイを購入した時、ラベリングが”カンアオイ”だけだったので、これはいったい”何カンアオイ”なのかを調べたいな! ということです。
僕自身、カンアオイを同定するのは初めてのことなので、カンアオイを同定する方法について調べながら知識を蓄えつつ、今春開花した我が家のカンアオイを実際に同定してみるという流れで。
勉強を兼ねていることもあり、ちょいと本気を出して執筆してみますので、興味のある方はぜひ覗いてみてくださいー!
カンアオイを同定するには何を見る?
葉は当てにならないので、必ず花を見よう
草本植物を同定する場合、開花期でもなければ、葉を眺めながら同定するのが一般的だと思います。具体的には、葉の形・サイズ・模様・色・質感・葉脈の入り方、葉の生え方などなど。もしくは、草丈とかでもアリかもしれません。
で、カンアオイの同定が難関と言われる所以のひとつは、今挙げたような葉に関するアレコレが全くもって当てにならないこと。これこそが、開花前で葉しかついていなかった我が家のカンアオイを同定できていないままだった理由でもあります。
ちょいと古いですが、カンアオイを同定する際の区別点について解説しているレポートから引用してみると
必ず花を調べること。葉は各種とも似ている上に、斑入などに個体変異が多く、葉だけで同定することはまず困難である。
*1
とのことで、種が違っても葉の形やサイズ感に大した差はない上に、同じ種だとしても葉の模様はけっこう違うから、同定の際に葉は全く当てにならないよ、みたいなことが書かれています。なので、同定する時は必ず花の形質を調べようねと。
試しに”ヒメカンアオイ”とGoogleで検索してみると、斑がほとんど入っていないものから、大きな斑が点在しているもの、小さくて細かい斑が一面に散りばめられたもの、更には亀甲模様がくっきりと入ったものまであって、同じ種だとしても葉の模様が多種多様ということに納得。また『春咲きヒメカンアオイの葉模様』というタイトルのこちらの記事を見てみても、葉模様の個体変異が激しいことが一目瞭然です。
もちろん検索でヒットした画像の中には野生種と園芸品種の両方が含まれていて、だからこそ変異の激しさが目に付くということもあるんだろうと思いますが、それでも、同じ種の中でここまでの変異を持っているのは植物界の中でもたいへん異色な存在だと思います。
ま、とりあえず大切なことは、同定の際に葉は当てにならないので必ず花の形質を見ようということで!
ちなみに花の形質と言うと一般的には、大きさ・形・色などのことを指しますが、カンアオイを同定する場合は花の内側の網目模様が重要視されるそうです。「網目模様が縦に〇〇本、横に□□本入っていれば、**カンアオイだよね」みたいな世界線。マニアックすぎて既にお腹いっぱいです。
発見した地域を考慮してみよう
カンアオイを同定する際には、個体を発見した地域も大きな手がかりとなります。
先ほどと同じレポートから引用してみると
その地域に分布する種類は限られている。日本には数十種類のカンアオイ属があるが、ひとつの地域に分布しているのは数種類以下であり、そのうちのどれであるかを判断するのは容易である。
*1
とのことで、同定したいカンアオイを発見した地域と、その地域に分布するカンアオイのレパートリーを把握すれば、選択肢をグッと絞ることができそうです。
だがしかし、このアプローチを使えるのはどこか自然な環境でカンアオイを見つけた場合のみ。登山中に見つけた時のために、今住んでいる九州近辺の分布ぐらいは勉強しておきたいなーと思いつつ、今回同定してみたいカンアオイはお店で売られていたもので、元々分布していた地域など知る由もないのでこのアプローチは却下です。マブな店員さんに聞いたら頑張って調べてくれそうだけれども!
開花期について知ろう
カンアオイ同定の際には、開花期もまた大きな手がかりとなりそうです。
というのも、上記の通りひとつの地域には数種類のカンアオイが分布していますが、それぞれの開花期は違っており、季節ごとに咲き分けている場合が多いからです。
例えば、日本細辛・カンアオイ保存愛好会に掲載されている『愛知県産カンアオイ分布域』のページを覗いてみると、同じ愛知県に分布している8種のカンアオイでも以下のような咲き分けが見られるようです。*2
和名 | 開花期 |
チタカンアオイ | 1月~2月 |
イワタカンアオイ | 10月~11月 |
ミヤコアオイ | 2月~4月 |
スズカカンアオイ | 12月~3月 |
カントウカンアオイ | 9月~11月 |
フタバアオイ | 4月~5月 |
ヒメカンアオイ | 2月~3月 |
サンエンアオイ | 9月~12月 |
この愛知県の場合は、ざっくりと秋頃・冬頃・春頃で咲き分けが見られそうなので、同定したいカンアオイの開花期を把握することで、また更に選択肢を絞り込むことができそうです。
まとめ
色々と情報が散らかってきたので、一旦ここでまとめを。
カンアオイを同定する際に大切なことは、これらの3つ。
・花の形質を調べること。葉の形質はあまりあてにならない。
・発見した地域と、そこに分布するカンアオイの種類を把握すること。
・開花期を把握すること。
特に野生個体を同定する場合には、「発見した地域に分布する種を把握し、数種に絞る」→→「それらの開花期を把握し、さらに絞り込む」→→「花の形態から種を特定する」という段階を踏むのが一番確実なのではと個人的には思いました。
園芸店でゲットした個体を同定する場合は…、上の3つの情報をできるだけかき集めれば、ある程度絞り込むことはできそうです。それか園芸種の図鑑を買ってみるか。
難しさに呻きながらも実際に同定に挑戦!
本記事ではこれまでに、カンアオイを同定する際には、花の形質や発見した地域、開花期の情報を把握すべきことを学んできました。しかし我が家のカンアオイは、お店で手に入れたもの。当たり前ですが分布する地域は不明なので、今回は花の形質と開花期に着目しながら同定に挑戦してみたいと思います。
下準備として調べたコトも加えると、我が家のカンアオイに関して分かっている情報はこんな感じ。
・花の長さは1cm強で暗紫色なこと。
・花を4つ解剖してみると花の内部には縦線12本、横線4本の網目模様が入っており、雌蕊は6本、雄蕊は12本であったこと。
・2024年3月19日に開花を確認したので、開花期は3月以降と考えてよさそうなこと。
・他のカンアオイと比較して、なんだか葉先が凹んでいること。
そしてここからの同定作業は自分にとってもマジで未知な世界だったので、かき集めたこれらの情報を引っさげ、資料と睨めっこすべく図書館へと向かいます。
葉先の凹みはかなり特徴的なようで
よーし花の形質と開花期に着目しながら同定してやるぞ!
……と息巻いてみたはいいものの。
どうやら図書館の図鑑を眺めていると、我が家のカンアオイに見られる葉先が凹むという特徴は、他ではあまり見られない珍しい特徴であることが分かってきました。そしてこのような特徴を持つものは、コバノカンアオイということが判明しました。
今回図書館で睨めっこした2つの図鑑には、このように記載されています。
コバノカンアオイ
*3 より。太字とカッコ内は記事筆者。
小型、葉は1個、円腎形で径約3cm内外、先端が少し凹入し、平坦で光沢がなく、長柄がある。花は前種(ヒメカンアオイ)に似ているが質が厚く、花被の裂片は舷部に向かって流下し、喉環との境界がない。ーⅢ-Ⅳー植栽されるのみ。
コバノカンアオイ
*4 より。太字は記事筆者。
葉は1個で小さく、円腎形で径3cm、先は凹入。花は3-4月。淡褐紫色。栽培。
色々書いてありますが、とりあえず太字をつけているところに注目してみると、開花期や花色の特徴が我が家のカンアオイとバッチリ一致しているのに加え、葉先が凹入しているとの記載があります。図鑑に載っていたカンアオイの説明文には全て目を通してみましたが、葉先が凹むことに言及されているのはコバノカンアオイただ1種のみ。また栽培品種と記載されていますが、これは我が家のカンアオイをお店で入手したという状況とも辻褄が合うような気もします。
我が家のカンアオイの葉は径4~5cmだったのに対し、図鑑には径約3cmと記載されているので、そこら辺の誤差が気になるところではありますが、今回はただの誤差ということで片付けておきます。あと今回の図鑑には、花内部の網目模様に関する記載がなかったのが惜しいですね。4つの花を解剖して網目模様の本数が全て一致していただけに、その情報が手に入ればもっと自信を持って同定できていたかもしれません。
というように、初めてのことなので自信が持てない部分もありますが、葉先の凹み・開花期・花の色から、今回の同定結果はコバノカンアオイということで決着。
葉の形質は当てにならないと学びつつ、結果的に葉の形質を大いに頼って同定しちゃうという、なんだかセコい裏技を使ったような結末になりましたが、カンアオイに対する理解がぐんと深まってとてもよい経験となりました!
参考にした情報
*1 清邦彦, 1979. 食草解説 カンアオイ類(1) ー南関東〜静岡のカンアオイ類ー. やどりが 99.100号.
*2 日本細辛・カンアオイ保存愛好会 / 愛知県産カンアオイ分布域
https://kanaoiasarum.jimdofree.com/愛知県産/
*3 大井次三郎, 1975. 改訂増補新版 日本植物誌 顕花篇. 至文堂.
*4 北村四郎・村田源, 1961. 原色日本植物図鑑・草本編Ⅱ. 保育社.