北九州(2025年4月の日記)

2025/05/16 日記

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有吉 諒真(ありよし りょうま)

福岡生まれ福岡在住。大学時代を過ごした沖縄にて植物の世界に魅了され、植物学で修士号を取得。現在は"衣食住"に植物を取り入れた暮らしを楽しみ、探求することを目的に活動中。

2021年4月に書いた文章の改稿です。

過疎
無機質
昭和の抜け殻

久しぶりに訪れた北九州では、そんな言葉が頭の中を飛び交った。

夜、「やっぱ酒飲みたいっすよねー」とか話しながら商店街をフラフラと歩いてみても、シャッターを上げている店は片手で収まる程度。てきとーに入った居酒屋の大将は「近くにあったほっともっととか資さんうどんさえも潰れたっちゃんねー」って寂しそうに言っていた。ここは、面積あたりの高齢者人口の割合が飛び抜けて高いとも。そもそも、一番の光源がパチ屋の町はどう考えてもオワっている。歩けど歩けど、体温を感じない。あまりのがらんどうぶりを直視する気が失せても、既に脳内に侵入してしまった冷え切った町の光景は、脊髄を下降して全身を芯から冷やしていく。

あーあ、せっかく冬が過ぎて末端冷え性が治まったと思ったのに。

というか、うどん屋のくせに何故かおはぎがバカ美味い資さんうどんが、酔っ払った後にありがたい24時間営業の資さんうどんが、そもそも北九州発祥の資さんうどんが、北九州の地で潰れるなんてマジかよって、ずっと考えていた。というかそれぐらいしか考えることがなくて、それぐらいしか考えられなかった。

駅前には、俺の人生史上一番デカくて一番長いイオンモールが聳え立っていて、なんだかそれが街全体に蔓延するウンザリ感を増幅させてしまっている気がしてならなかった。無様だよな、イオンモール。イオンのスーパーじゃなくて、イオンのモール。モール。Mall。無様。デカくなればなるほど、かっぺ度合いが増していく。かっぺ度合いの指数関数的増加。すごいよな、イオンのモールのサイズを見ただけで地域のかっぺ度合いを一瞬で悟ってしまうことができるんだもんな。研究者とか政府はわざわざ人口の統計をとって過疎具合を評価するんじゃなくて、イオンのモールの総売り場面積か何かで評価したらいいと思った。

北九州に行ったのは博物館に用事があったからで、その用事の最終日にはよくしてもらった職員の方が「視察ってことにしときますから」と耳打ちしてくれて、タダで中の展示を見ることができた(外面作り笑顔、内心お祭り)。博物館は小学校低学年ぐらいの時、つまり15〜16年前に1回だけ行ったことがあって、微かに残る小さな記憶を引っ張り出してきて今現在の展示と照らし合わせていたけど、なかなか合致しなかった。その小さな記憶には、ティラノサウルスの頭骸骨が大きな直方体のショーケースに展示されていた光景が確かに残っていたけど、今現在はそんなものは見当たらず、天井の高い広々とした館内に恐竜の全身骨格が無数に屹立していた。後で職員の方に聞くと博物館は10年前にリニューアルされたらしく、俺は昔の記憶とは全く別の光景を見ていたみたいだった。恐竜に関して言うと、昔みたいなショーケース越しの展示じゃなくて、低い柵はあるけど骨格標本を全て生で見ることができるように展示されていてめちゃくちゃ良かった。日曜でガキがいっぱいいて、手の届く骨は片っ端から触りまくっていたけど。

子どもといえば、俺が蝶の標本の展示を眺めていたら5才ぐらいの男の子が突然後ろから喋りかけてきたから、好きな動物の話とか、俺は今じゃもう全くついていけてない戦隊モノの話を一緒に15分ぐらいしていた。まだ話は支離滅裂だったんだけど可愛かったから、親がやって来るまでずっと話していた。その子とは喋った瞬間に、纏っている空気の波形がすごく近いような気がしておもしろかった。ほんのたまーにだけど、こういうことってあるんだよな。これをオードリーの若林は音叉、『リリイシュシュのすべて』ではエーテルって表現していると思う。

子どもの話はもうひとつあって、それは博物館にある哺乳類の展示スペースでのこと。スペースの一角にはアザラシ・アシカ・トドといった海獣の剥製が展示してあって、俺はパネルに書いてあったアザラシとアシカの耳形態の違いに関する文章ををぼけーっと読んでいた。するとそこに綺麗でスタイルいい感じのお母さんに手を引かれた小さい男の子がやってきて、「すごいねー、かわいいねー」とか言いながらアザラシ、アシカの順で展示を通り過ぎていった。俺は「やっぱ子どもかわいいなー」とか思いながら親子を横目でチラ見していると、その親子は海獣スペースの最後に君臨する、まるまると肥えたトドの剥製に差し掛かった。すると、その男の子は何を思ったのか真面目な顔で突然

「なんかママみたい…」

とか言い出すから俺はもう
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
ってなったけど噴き出そうにも噴き出せず、恐竜が目玉の博物館の、特に盛り上がってもいない哺乳類スペースの片隅でひとり必死になって笑いを噛み殺していた。

おもしろいじゃん北九州。

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