もくじ
はじめに
サイトを見に来てくれたみなさま、こんにちは!
MELIAMANNA(メリアマナ)店主の有吉です。
MELIAMANNAとは、大学院で植物学について学んだ店主が
”衣食住”に植物を取り入れた暮らしを追求すことをテーマとして
2023年に立ち上げたサイトです。
今回の記事では、青く光り輝く葉が魅力的なシダの一種である
コンテリクラマゴケ(Selaginella uncinata)について紹介しています。
僕が登山に行く途中に、林道で偶然見つけたコンテリクラマゴケ。
その魅惑的な姿に感動してその場に這いつくばって写真を撮りまくり
更には家に帰ってネットで詳しく調べてみると
コンテリクラマゴケには、鑑賞的な価値のみならず
薬草(漢方)としての民族植物学的な利用価値があることを知りました。
たまたま目に入ってきたような植物でも、調べてみると何かしらの利用方法があるなんて
人間と植物の関係は本当に奥深いものだと感じますね。
さて、今回のコンテリクラマゴケに関する記事は、二本立てにしています。
その二本目である本記事では
・関節炎や外傷性損傷に対する利用
・RSウイルスやパラインフルエンザに対する抗ウイルス薬としての利用
といった薬草としての利用価値に絞ってお送りします。
少し専門的でマニアックな内容ですが、興味のある方は是非!
民族植物学的な植物の利用
◎食と植物
ヒトは古来より、食物・飲料・薬などとして身近にある植物を利用してきた歴史があり
ヒトと植物の間には、密接な繋がりが築かれてきました。
MELIAMANNAでは、そのような繋がりが希薄になった現代の世界で改めて
食物・飲料・薬などといった“食”としての植物の可能性を深く探り、発信しています。
今回の主役であるコンテリクラマゴケについても
偶然山の中で発見して、その魅惑的な青色の葉に心を奪われ
もっと詳しく知るためにインターネットをぽちぽちしているうちに
薬草として解毒、利尿などの効果があるとされる。*1
https://ja.wikipedia.org/wiki/コンテリクラマゴケ
(岩槻邦男編, 1992. 日本の野生植物 シダ. 平凡社. の引用部分)
という情報を発見しました。
これが地下鉄沿線上に住む文明人の偏った意見なのは重々承知で言うのですが
コンテリクラマゴケをたまたま見つけた時の僕の印象は
「観賞用に全振りしたみたいなルックスやな〜」だったので
こんなにも煌びやかな植物までもが、薬草として利用されうる可能性があることに
とてもとても驚いたのでした。
そして、こうなってしまうともう好奇心が止まりません。
「薬草として、どのような効能があるの?」
「どんな地域で薬草として使われているの?」
「どのような方法で摂取するの?」
といったことたちが気になり始めて、ネットの海を彷徨ううちに
疑問を解決してくれる2本の論文を見つけたので、ここで紹介したいと思います。
コンテリクラマゴケについての簡単な紹介
論文の紹介に移る前に、まずはここで
今回の主役であるコンテリクラマゴケについて簡単に紹介してみましょう。
青い葉が魅惑的なコンテリクラマゴケの、育て方や鑑賞方法を考えてみる
と題した一本目の記事を既に読んでいただいた方は
同じ内容ですので、このセクションは飛ばしていただいても構いません。
和名:コンテリクラマゴケ(紺照鞍馬苔)
英名:Rainbow Moss
学名:Selaginella uncinata
分類:イワヒバ科 Selaginellaceae
原産:中国
環境:林床。遮光された光と高い湿度を好む。
◎それぞれの名称について
コンテリクラマゴケ(紺照鞍馬苔)という和名の由来は
葉の表面が紺色で光沢があることから*1 だそうです。
日本には元々、クラマゴケ(鞍馬苔)というシダ植物が存在するので
その色違い見つけた!みたいなノリで命名したんでしょうか。
英名はRainbow Mossの名がついています。
先端部分をよく見ると、青→黄緑→黄色→オレンジのグラデーションがあるので
それをRainbow(虹)に見立てたのかなー?と僕は思ったのですが
ちゃんとした由来は分かりません。
◎原産地について
中国南部から西南部に分布する。日本には観賞用に持ち込まれ、あちこちで野生化している。*1
とのことです。
今回僕が福岡の山の中で見つけたように、関東より西の地域では普通に見られる植物ですが
本来は、人によって日本に持ち込まれて野生化した、帰化植物なんですね。
◎生育環境について
林床に生育しています。
株は上に立ち上がらず、地面を横方向に這いながら成長するので、マット状になります。
林床とは、森林の地表面にあたる部分のこと。
高い木々によって太陽の光は遮られるため、薄暗く、ジメジメとした環境です。
コンテリクラマゴケの薬草としての利用
コンテリクラマゴケについて簡単に知識を入れたところで
お次は、薬草としての利用価値に関する論文について紹介してみます!!
関節炎や外傷性損傷に対する薬草として
まず初めに紹介するのは、次のようなタイトルの論文です。
Ethnobotanical study of medicinal plants on arthritis used by Chaoshan in Guangdong, China
(中国の広東省潮汕地区において、関節炎に対して用いられる薬用植物の民族植物学的研究)
研究の目的は、そのまんまタイトル通りなのですが
*2
広東省で、関節炎に対して用いられている薬用植物に関する情報を集めてみよう
といった感じです。
そのために、植物学や薬学を専門とする学者や
医学的なバックグラウンドを持つ民間人に聞き取り調査を行なったり、
過去に広東省で行なわれた民族植物学的な調査のレビューを行なったりしています。
その結果、広東省では関節炎に対する薬草として
86種(52科, 82属)もの植物が利用されていることが判明しています。
こんな86種もの植物の中に、コンテリクラマゴケもリストアップされていましたので
その部分について、紹介と解説をしてみますね。
まず、コンテリクラマゴケについて記述されている部分はこんな感じ。
学名: Selaginella uncinata
*2のTable1より
科: イワヒバ科 Selaginellaceae
薬草としての利用部位: 全草
投与形態: Vinum (ヴィノム / ヴィヌム)
薬効のある症状: リューマチ性関節炎, 外傷性損傷
ではお次に、今紹介した部分について解説を。
個人的にとても気になったのが、投与形態: Vinum (ヴィノム / ヴィヌム) と書いてあるところ。
投与形態というのは、どのような方法で薬草を体内に摂取するのか、ということでしょうが
Vinum (ヴィノム / ヴィヌム) という言葉は初見で、意味を知らなかったので調べてみると
Vinumとはラテン語でワインを示す単語であることが分かりました。
すると、投与形態: Vinum (ヴィノム / ヴィヌム) の意味が紐解けてきますね。
伝統医療や民間療法において薬草を利用する際には
成分を抽出するために植物の部位、あるいは全草をアルコールに浸しておき
その液体を服用・塗布するのはとても一般的なことです。
広東省において、コンテリクラマゴケを関節炎や外傷性損傷に対して利用する際にも
コンテリクラマゴケの全草をワインに浸すことで有効成分を抽出し
その液体を服用する、あるいは患部に塗布していると考えられます。
ただし注意点として、上のようなコンテリクラマゴケの利用法は
聞き取り調査のみによって得られたもの。
具体的に、〇〇や△△という成分が関節炎に有効で…というデータがあるとは
この論文の中では示されていません。
とは言え、いくら具体的なデータが示されていなくても
このように古来から受け継がれてきた植物利用の知恵はとても大切であると感じます。
ここで紹介した論文の考察にあたる部分でも
広東省潮汕地区ではこれまで、父親から息子へと薬草の知識が継承されてきたが、子が薬草の知識を継承したがらないことにより、後継者問題に直面している。また都市化により自然環境や伝統文化が失われている現状がある。これらのことにより、未記録の薬草に関する情報は永久に失われることになるだろう。
*2
といったことが書かれていて、「この状況はどこの国でも変わらないんだな〜」と思いました。
もちろん、どの国でどんな職業に就くかは自由なんですけど、それとは別で
多種多様な動植物が共存する地球にせっかく生まれ落ちたんだから
身近な動植物の名前や、それらとの付き合い方を人生通して学んでいくというのが
地球人の自然な姿なんじゃないかな、と感じるこの頃です。
RSウイルスやパラインフルエンザへの抗ウイルス性
お次に紹介するのは、少し古いですが、次のようなタイトルの論文です。
Uncinoside A and B, Two New Antiviral Chromone Glycosides from Selaginella uncinata
(コンテリクラマゴケから発見された、抗ウイルス性をもつ2種類の新しいクロム配糖体である
Uncinoside A とUncinoside B について)
コンテリクラマゴケは漢方薬として感染症や腫物に対して用いられており、過去の研究では全草のアルコール抽出物が、肺炎や気管支炎の主な原因となるRSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)に対して抗ウイルス性を持つということが確認されているそうです。
*3
そこでこの研究では、コンテリクラマゴケから発見されたUncinoside A・Uncinoside Bなどの物質がもつ、RSウイルス・パラインフルエンザ(Parainfluenza Type 3 Virus)・A型インフルエンザ(Influenza Type A Virus)に対する抗ウイルス性について調査しています。
この引用では具体的な方法は割愛しますが、研究の結果を示します。
・Uncinoside Bは、RSウイルスに対して強い抗ウイルス性を示した。治療薬の効果を示すTI値(Therapeutic Index)は64.0と、RSウイルスの治療薬であるリバビリンの24.0よりも高い値を示した。
・UncinosideA・UncinosideB共に、パラインフルエンザに対して中程度の抗ウイルス性を示したが、TI値はどちらもリバビリンより低い値を示した。
・Uncinoside A・Uncinoside B共にA型インフルエンザに対する抗ウイルス性は見られなかった。
論文の内容を要約してみると、このような感じになります。
コンテリクラマゴケをアルコールに浸けることによって抽出される物質には
RSウイルスやパラインフルエンザへの抗ウイルス性があり
物質の種類にもよりますが、その効果は市販薬を上回ることもあると。
このようなデータを突きつけられると
やはり古から受け継がれてきた薬草利用に関する知識には
絶対に葬り去られてはいけないほどの価値があるよな、と思います。
また、今回の論文では単離された物質に焦点を当てて研究されていましたが
民間療法に用いる際は単離などしませんので
植物に含まれたさまざまな物質が合わさった時の効果についても
今後見つけられたらいいなと思います。
さいごに
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今回の記事では、コンテリクラマゴケについて二本立てでお送りしました。
一本目の記事では、僕が偶然山の中でコンテリクラマゴケに出会った時の話に加え
その育て方や鑑賞方法のコツについて書きました。
また二本目の記事である本記事では
薬草としての民族植物学的な利用価値について紹介しました。
日本には鑑賞目的で持ち込まれたとても綺麗な植物ですが、そのイメージとは裏腹に
自生地である中国の広東省では漢方薬として用いられており
市販薬をも凌駕する抗ウイルス性を持つ物質を含むことも分かりました。
二本目の記事を書いている途中に思ったのが
やはり我々は知能を持った生物として地球にやってきた以上
身近に存在する動植物たちとの繋がり方を探究していくのが
とても自然な姿なのではないか、ということ。
ヒトと自然との繋がりが希薄になった今に改めて
MELIAMANNAでは身近な植物と共に生活していくための知恵を発信していきますので
今後ともお付き合いをよろしくお願いします〜。
ではまた次の記事で!
コンテリクラマゴケに関する一本目の記事
参考にした情報
*1 https://ja.wikipedia.org/wiki/コンテリクラマゴケ
*2 Peihong Chen, Fuchun Zheng, Yanmei Zhang, Fenfei Gao, Yicun Chen and Ganggang Shi, 2016. Ethnobotanical study of medicinal plants on arthritis used by Chaoshan in Guangdong, China. Medical chemistry 6(12): 715-723.
*3 Ling-Yun MA, Shuang-Cheng MA, Feng WEI, Rui-Chao LIN, Paul Pui-Hay BUT, Spencer Hon-Sun LEE and Song Fong LEE, 2003. Uncinoside A and B, Two New Antiviral Chromone Glycosides from Selaginella uncinata. Chem. Pharm. Bull. 51(11) 1264-1267.